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安全圏は“22cm以上”! ・・・携帯電話と心臓ペースメーカー

最近、電車やバスの中で、携帯電話の使用に関するお願いを聞くことが多くなりました。「混雑した車内で携帯電話を使用すると心臓ペースメーカーに影響を及ぼす恐れがあるので、電源スイッチを切るように」とのアナウンスです。

◆微少な電気信号で動いている

私達の生命活動を支えるリズミカルな心臓の動きは、 洞結節 (どうけっせつ) と呼ばれる部位に生じる微少な電気信号 (刺激) が、心房 (しんぼう) 右房 (うぼう) と左房 (さぼう)、房室結節 (ぼうしつけっせつ)、ヒス束 (そく)、右脚 (うきゃく) あるいは左脚 (さきゃく)、心室 (しんしつ) 右室 (うしつ) と左室 (さしつ) へと伝えられることによって、保たれています (図1)。不整脈と呼ばれる心臓の病気の多くは、こうした刺激の頻度が多過ぎたり、少な過ぎたり、バラバラだったり、あるいは刺激の伝達がうまくいかなかったりといったことによるものです。心臓の収縮回数が増える場合には動悸を感じることになりますし、減る場合には眩暈 (めまい) や失神発作を生じることになります。心臓ペースメーカー (図2) は心臓を収縮させる規則正しい電気信号 (刺激) を人工的に作り出す装置で、心臓の収縮回数が多過ぎるタイプの不整脈 (頻脈性不整脈) (ひんみゃくせいふせいみゃく) や少な過ぎるタイプの不整脈 (徐脈性不整脈) (じょみゃくせいふせいみゃく) をお持ちの方が装着されています。

◆携帯電話の心臓ペースメーカーへの影響

心臓ペースメーカーをはじめとする医用電気機器は、電気や電波 (電磁波)、磁気によって影響を受け、誤作動を起こすことが知られています。携帯電話からは、呼び出し中や通話・メール交換中はもちろん、そうでない場合にも、電源が入っている間は基地局に向かって電波が出ており、この電波が問題となるのです。 心臓ペースメーカーが携帯電話の影響を受けると、 (1) ペースメーカーパルス出力の抑制 (ペースメーカーの作る電気信号が弱くなり、ペースメーカーが心臓を刺激しなくなる)、 (2) 非同期ペーシング (ペースメーカーが不必要な時に心臓を刺激する)、 (3) ペーシングレートの増加 (ペースメーカーの作る電気信号の頻度が増え、心臓の収縮回数が過剰になる) といったことが起こります。

(図1) 心臓の刺激伝導系 (模式図)
(図2) 最近のペースメーカー。

大きさ4~5cm、厚さ6~7mm、重さ25g程度と小型軽量化が進んでいる。

◆誤作動を避けるために必要な"22 cm 以上"の距離

携帯電話から出る電波の強さは携帯電話が置かれている場所や状態によって異なり、電波が弱い場合や、携帯電話と心臓ペースメーカーとの距離が離れている場合にはトラブルは起こりません。今までに行われた実験からは、通常の携帯電話では22cm以上、肩掛型携帯電話や自動車電話では30cm以上離すことによって、心臓ペースメーカーへの影響が無くなることが分かっています。 また、PHS 端末は電波出力が通常の携帯電話の10分の1以下であり、医用電気機器への影響は比較的少ないとされています。

◆あなたの傍にいるかもしれない 心臓ペースメーカー装着者!

心臓ペースメーカーを装着している人を外見から見極めることはまずできません。一般的に心臓ペースメーカーは左前胸部の皮下に装着されることが多く、そうした患者さんの中には、注意深く22 cm 以上の距離を取りながら右手で携帯電話を使っている方すらあります。しかし満員電車などで、心臓ペースメーカーを装着した方と携帯電話を持った方とが前後左右に隣り合わせた場合、心臓ペースメーカーと携帯電話との距離が22cm以上離れているという保証がないのです。あなたのすぐ傍にいるかもしれない心臓ペースメーカー装着者のために、ちょっとした気配りを・・・車内放送はそう訴えているのです。

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