年末年始、お酒を飲む機会が増える頃になりました。自分はともかく、身近にお酒好きがおられる方も多いことでしょう。街の中や電車の中でも、赤ら顔の人、千鳥足の人、寝てしまっている人など、さまざまな方を見かけます。
◆"酔い"はアルコールによる脳の麻痺
お酒による"酔い"は、お酒の主成分であるアルコール (エチルアルコール) が脳を麻痺させることによって生じます。最初に麻痺するのは大脳新皮質 (だいのうしんひしつ) と呼ばれる部分で (下図)、理性の抑制がとれ"ほろ酔い"気分となって、普段より陽気になったり、幸福感に包まれたりします。通常、日本酒1~2合、ビール (大ビン) 1~2本、ウイスキー (ダブル) 1~2杯といったところで、この時の血中アルコール濃度は 0.02~0.1 %程度です。
◆"ほろ酔い"と"酩酊 (めいてい) "を分ける血中アルコール濃度0.1%
血中アルコール濃度が 0.1~0.2 %程度に上昇し、麻痺が大脳辺縁系 (だいのうへんえんけい) や小脳 (しょうのう) と呼ばれる部分におよぶと、呂律が回らなくなったり、吐き気がしたり、千鳥足になったりします。"酩酊"いわゆる"酔っぱらい"状態です。通常、日本酒2~3合、ビール2~4本、ウイスキー2~4杯といったところです。酩酊状態ではアルコールそのものによる死はないものの、交通事故やケンカなど思わぬトラブルに巻き込まれ易くなります。
ヒトの脳とアルコールによる麻痺 |
◆麻痺が進むと泥酔 (でいすい)、昏睡 (こんすい) から死へ!
麻痺が脳幹 (のうかん) と呼ばれる部分 (間脳〔かんのう〕、中脳〔ちゅうのう〕、橋〔きょう〕、延髄〔えんずい〕など) にまで進むと、まともに話ができなくなったり、立ち上がれなくなったりし、"泥酔"いわゆる"酔いつぶれ"状態になります。吐物による窒息死や体温の低下による凍死の危険がでてきます。通常、日本酒3~5合、ビール4~5本、ウイスキー4~6杯といったところで、この時の血中アルコール濃度は 0.2~0.3 %程度です。さらに麻痺の程度が強くなると"昏睡"状態となり、呼吸中枢の存在する延髄まで麻痺が達すると死が待っています。通常、日本酒5~7合、ビール5~7本、ウイスキー6~8杯、血中アルコール濃度は 0.3~0.4 %程度とされています。
◆お酒はゆっくり、食事をしながら
お酒はゆっくり食事をしながら飲むと、血中アルコール濃度の上昇も緩徐に進み、"ほろ酔い"から酩酊状態となる頃には眠気を催して、それ以上飲み続けることは少なくなります。これに対して、"一気飲み"に代表されるようなペースの速い飲酒や、空腹での飲酒では、血中アルコール濃度の上昇も急峻で、自制機序の働く間もなく泥酔・昏睡状態から死へと進む可能性が高くなります。
◆泥酔、昏睡は体温を保持して病院へ
一緒に飲んでいる人が酩酊状態になったら、それ以上飲ませないことが大切です。泥酔状態や昏睡状態の場合は迷わず病院に運びましょう。少しの遅れが悲惨な結果に繋がります。吐物で窒息しないよう、上向きではなく、横向きに寝かせるのが安全です。お酒に強い方 (なかなか酔わない方) は、お酒に弱い方 (すぐ酔ったり、気分が悪くなる方) が日本人の半数くらい存在することを知っておいてください。自らもほどほどに、他に強要することもなく、皆で楽しい年末年始を過ごしましょう。
神戸大学保健管理センター
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