本年5月1日から健康増進法が施行され、学校や体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店など多数の人達が利用する施設では、受動喫煙 (間接喫煙) を防止するための措置を講じることが求められるようになりました。受動喫煙とは" 自分自身は喫煙しない人達 "が、室内などの環境で" 他人のタバコの煙を吸わされること "をいいます。
◆「主流煙」より「副流煙」に多い有害物質 化学物質
タバコの煙には喫煙者が吸い込む「主流煙」と、吐き出される「呼出煙」、点火したタバコから立ちのぼる「副流煙」とがあります。タバコの煙に含まれる化学物質は 4,000 種類以上にのぼり、少なくとも 200 種類以上が人体に悪影響を及ぼす有害物質であると考えられています。そして、有害物質の量 は「主流煙」よりも「副流煙」に多いのです (下表) 1)。
化学物質 | 主流煙(mg/本) | 副流煙(mg/本) | 備 考 |
アンモニア | 0.16 | 7.4 | |
一酸化炭素 | 31.4 | 148 | |
二酸化炭素 | 63.5 | 79.5 | |
窒素化合物 | 0.014 | 0.051 | |
ニコチン | 0.92 | 1.69 | フィルターなし |
0.46 | 1.27 | フィルター付き | |
ベンゾ(a)ピレン | 3.5×10-5 | 13.5×10-5 | |
ピレン | 13×10-5 | 13×10-5 | |
フェノール類 | 0.228 | 0.603 | |
カドミウム |
12.5×10-5 | 45×10-5 |
タバコの「主流煙」と「副流煙」に含まれる 代表的な化学物質の量
◆発癌その他で明らかな受動喫煙の害
保健管理センターだより (29) でも紹介しましたようにタバコは肺癌をはじめとする諸種の癌 (口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、膀胱癌、膵臓癌など) の原因になることが知られています。また、狭心症や心筋梗塞、慢性気管支炎、気管支喘息、肺気腫、胃・十二指腸潰瘍、バージャー病の原因となったり、悪化要因となったりします。受動喫煙についても同様で、例えば夫が喫煙者の場合に非喫煙者の妻が肺癌で死亡する率が増加するなど2)、非喫煙者が受動喫煙によって喫煙者に劣らぬ害を被るとの報告は枚挙にいとまありません。
◆受動喫煙の防止に向けて
タバコの煙はガス成分 (アンモニア、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物など) と粒子成分から成り、後者も直径 0.5 ミクロン ( 1 ミクロンは 1,000 分の 1 mm) 程度ですから、いったん部屋の中に拡散すると通常の空気清浄機で除去することはかなり困難です。健康増進法では「受動喫煙の防止」を独立した条文 (第 25 条) として掲げ、上記のような施設の管理者に受動喫煙を防止するための措置を講じることを求めています。喫煙場所を屋外に設定したり、喫煙空間から外気へ排気する装置を設置するなどの工夫が必要です。施設全域を禁煙とするところも増えてきました。職場だけでなく、家庭や身近な環境においても、タバコの害から自分自身や周囲の人達の健康を守る方策のこと、考えてみませんか?
1) US Department of Health, Education, and Welfare: The Health Consequence of Smoking、89 頁、1975 より
2) 日医雑誌、第 108 巻、第 10 号、1992 より
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