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楽しい旅を!・・・旅行者血栓症 (エコノミークラス症候群) に気を付けて

年末、年始。長期休暇に旅行を!と計画されている方も多いことでしょう。乗り物の中で長時間座った姿勢を続けることによって起こる旅行者血栓症 (Traveller's Thrombosis、いわゆるエコノミークラス症候群 Economy Class Syndrome) が問題になっています。

◆脚の静脈血栓症 (じょうみゃくけっせんしょう) から肺塞栓症 (はいそくせんしょう) へ

乗り物の中でじっと座ったままでいると、脚の静脈の血流が鬱滞 (うったい) し、静脈の中に血の塊 (血栓といいます) が形成されます。これが静脈血栓症で、形成された血栓が血流にのって心臓へ行き、肺につまると肺塞栓症となって命にかかわることになります。これを旅行者血栓症といい、特に航空機による長時間の移動の際、エコノミークラスの利用者に多く発生することから、エコノミークラス症候群とも呼ばれています。

◆航空機に限らない旅行者血栓症

旅行者血栓症が航空機の利用者に多いのは、客室内の環境 (低い湿度、低い気圧、低い酸素濃度、狭い座席など) が関係していると考えられ、エコノミークラスだけでなくビジネスクラスやファーストクラスの利用者にも発生しています。また、航空機だけでなく、船や電車・バス、車による移動でも起こります。例えば最近では、7時間20分の乗車勤務の後に肺塞栓症となったタクシー運転手の例が報告されています1)。長時間の交通機関での移動中や移動後に脚の発赤や腫脹 (腫れ)、痛みが生じた時はすぐに医師の診察を受けるようにしましょう。静脈血栓症の可能性があります。肺塞栓症を発症すると、胸痛と呼吸困難が起こり、ショック状態で急死することもあります。

座席でできる脚の運動

◆旅行者血栓症を防ぐ水分摂取と脚の運動

血栓の発生を抑えるためには、まず充分な水分を摂取することが大切です。その際、アルコールやカフェインの多い飲料 (コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶など) は利尿効果があるため避け、ノンアルコール・ノンカフェインの飲料 (水、スポーツドリンク、麦茶など) を選ぶようにします。そして、乗り物の中ではゆったりした服装で過ごし、時々ストレッチをしたり、可能であれば立ち上がって歩くようにしましょう。航空会社が紹介している座席でできる脚の運動もあります (上図) 2)。

◆ハイリスクの方は予め医師と相談を!

喫煙者や40歳以上の方、肥満の方、糖尿病・高脂血症・炎症のある方、3日以内に小手術を受けた方などは特に意識してこれらの予防法に取り組んでください。低身長の方は、膝の裏と座席の間にすき間ができるよう、バッグなどを足台として使用しましょう。経口避妊薬を服用中の方や女性ホルモン療法を受けている方、妊娠・出産後の方、下肢静脈瘤・下肢の麻痺・6週間以内の下肢の外傷・多血症・心不全・6週間以内の心筋梗塞をおもちの方は血栓形成を抑制するアスピリンの服用の可否について医師とご相談ください。また、静脈血栓症・血液凝固異常症の既往が自分や家族にある方、6週間以内に大手術を受けた方や脳血管障害の既往のある方、悪性腫瘍をおもちの方は、アスピリンよりも血栓形成抑制作用の強いワーファリンや低分子ヘパリンなどの服用が必要になるかも しれません3)。

1) 朝日新聞、平成15年8月7日より

2) 日本航空ホームページ ( http://www.jal.co.jp/safety/) より

3) 森尾比呂志、エコノミークラス症候群、日本臨床、61: 1805,2003 より

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